札幌市の中心に位置する北海道大学の札幌キャンパス。校舎や研究棟がある一方、多くの木々も生えていて小川や池といった水辺もあり、野鳥にとっても大事な環境になっています。
北大野鳥研究会の代表である安田直矢さんに、北大でできる野鳥観察について教えてもらいました。
北大は野鳥観察に絶好なフィールド
北海道大学札幌キャンパスの敷地の概略図(国土地理院の地図を加工)
「177万平方メートルという広大な敷地面積に、校舎や研究棟などの人工物に加え、多くの木々が生える森や小川、田畑がある。様々な環境があり生き物の種類が多い」(安田さん)
実際に北大の地図を広げてみると、大学構内には恵迪(けいてき)の森や遺跡保存庭園といった木々が茂っている場所もあれば、別の場所にはサクシュコトニ川や大野池といった水辺もあることがわかります。
さまざまなフィールドに生態の異なる別の種類の鳥たちが生息しているというわけです。
さらに「北大周辺に鳥たちが羽を休める場が無いので、鳥たちが集まってきやすいという点」「街中にあるため、観察者がアクセスがしやすい点」も北大で野鳥観察をするメリットとして安田さんは挙げています。
「季節ごとに観察できる鳥の種類が変わる」シマエナガ探しは冬がおすすめ
北大では4〜5月にセンダイムシクイやオオルリ、ベニマシコ、カッコウ、オオジシギなどが観察されます。
センダイムシクイ 2022年5月5日 大野池 外岡隼さんが撮影
ベニマシコ 2023年5月3日 北大外(積丹町) 外岡隼さんが撮影
特徴は「上面から後頭部にかけた深みのある青、おでこのコバルトブルー、のどの黒色、お腹の白色」。青と白のコントラストが美しい鳥です。
「春の早朝に恵迪の森や遺跡保存庭園を歩いていると、オオルリの複雑で美しいさえずりを聞ける場合がある。双眼鏡で木の枝をくまなく探せば見つけられるかも」(安田さん)
オオルリ 2023年5月16日 中央ローン 池尻晄晟さんが撮影
コムクドリ 2022年4月28日 遺跡保存庭園 安田直矢さんが撮影
ノビタキ 2022年5月14日 北大外(石狩市) 安田直矢さんが撮影
オシドリ 2022年4月11日 恵迪の森 安田直矢さんが撮影
オシドリは4月の中旬ごろに飛来してきて、北大構内の木の高い場所にある洞(ほら)に巣を作り、繁殖します。「メスのオシドリが、ヒナを連れてメインストリートを横切っている姿を見たことがある人も多いのでは」と安田さん。
地元の人々に見守られながら子育てをする北大のオシドリ。ゆっくりと歩いたり泳いだりするので、バードウォッチング初心者でも簡単に見つけられる鳥です。
9〜11月に北大で観察される主な鳥の種類は、マミチャジナイやクロツグミ、コサメビタキ、ミヤマガラス。またマガンやオオハクチョウ、オオワシ、オジロワシなどが北大上空を飛んでいることがあるといいます。
オオワシ 2023年11月22日 北キャンパス 池尻晄晟さんが撮影
ミヤマガラス 2023年11月13日 北大第一農場、石山通り 安田直矢さんが撮影
ミヤマガラスの分布域はヨーロッパから中国までと広いものの、日本では繁殖していません。渡りの時期である10〜11月に北大に立ち寄ることが多いようです。
近年の特筆すべき観察記録は、2023年10月28日の夕方に、60羽のミヤマガラスが北大第一農場で観察された事例。
「どうやら北大周辺にねぐらがあるようだ。そのため、ねぐら入り前に多くの個体が第一農場に立ち寄ったのではないか」と安田さんは指摘します。
さらに同日には北大で最もポピュラーな種類のカラスであるハシブトガラスとハシボソガラスに加え、2羽のコクマルガラスも北大で見つかっていました。
安田さんは「北大で4種類のカラスが観察された珍しい日だ」といいます。
「クロツグミやマミチャジナイが渡りの最中に鳴いているのです。この鳴き声をノクターナル・フライト・コールといいます」(安田さん)
マミチャジナイ 2023年10月14日 遺跡保存庭園 池尻晄晟さんが撮影
キレンジャク 2021年3月5日 北大理学部横 和賀大樹さんが撮影
「冬は夏とは違い、木々が落葉しているので小鳥たちが木々の葉で隠されず観察しやすい。小鳥探しにはうってつけの季節だ」(安田さん)
ベニヒワ 2023年11月5日 北大外(羽幌町) 松浦基成さんが撮影
シマエナガ 2023年12月28日 北大外(平取町) 松崎秀哉さんが撮影
しかし北大でシマエナガ探しをする際には、気を付けなくてはいけない点もあります。
「札幌市内では1年を通して観察される場所もあるシマエナガだが、北大では冬にしか見られない」(安田さん)
「シマエナガは体が小さくてすばしっこく飛び回っているので、目視で見つけるのは意外と難しい。だが鳴き声が『ジュリ、ジュリ』と独特なので、それを頼りにすると見つけやすい」(安田さん)
シマエナガの群れ 2023年12月19日 北大のサークル会館前 SASARUライター野中直樹が撮影
タンチョウにクマゲラ…最近、北大で観察された珍しい鳥たち
タンチョウ 2022年4月15日 安田直矢さんが撮影
「2022年4月、タンチョウが北大上空を飛んでいるのを発見した」(安田さん)
大正時代には国内で絶滅したと考えられていたタンチョウ。しかし大正末期の1924年、道東で少数が生息しているのが再発見されました。そして道東を中心に個体数が増加。
令和3年度のNPOタンチョウ保護研究グループの調査によると、個体数は約1,800羽です。
さらに道央圏でも2012年に繁殖が確認されました。北海道内での生息範囲を少しずつ西に広げているようです。
「なんだこれと思い、双眼鏡をのぞいたらタンチョウだった。興奮で体が震えた。道外から北大に進学したので、札幌市の中心でタンチョウを初めて見た」(安田さん)
「カラスと見間違うほどの大きくて黒い体。そして頭部が赤い」。クマゲラの分かりやすい特徴がすぐに頭に浮かび、種類の判別は容易でした。
「コン、コン、コン」と乾いた音が森中に響き渡っていました。クマゲラは必死になって切り株にくちばしを打ち付けて木を砕き、中にいる餌となる虫を探しているようでした。
クマゲラ 2021年1月26日 恵迪の森 野中直樹が撮影
「北大は動物と人が共生する場」野鳥観察で気をつけるべきこと
1つ目は大学のルールを守ること。
北大は大学関係者以外でも気軽に立ち入れる地域に開かれた大学ですが、植生などを保全するために立ち入り禁止の場所が構内に数カ所設置されています。立ち入り禁止を伝える看板やロープなどに注意を払い、マナーを守って施設を利用するようにしていただけたらと思います。
2つ目は野鳥の観察圧を極力少なくすること。
安田さんは「集団での観察や撮影をしない」「長時間の観察や追いまわしをしない」「繁殖の邪魔をしない」という点を強調しています。
「ついつい鳥に集中しすぎて、近づきすぎてしまうことがよくある。鳥にプレッシャーを与えないように適度な距離を保つべきだ」
「繁殖期の野鳥はデリケートだ。営巣地に近づかずに遠くから見守ることが大切だ」(ともに安田さん)
北大はアクセスも良く、多くの野鳥を観察できるのでバードウォッチング初心者にもおすすめのスポットです。ルールを守って野鳥観察を楽しみましょう。
※写真は北大野鳥研究会のメンバーと野中が撮影
バードウォッチングを通して、自然を楽しむ北大のサークル。メンバー数は約50人。
X(旧ツイッター)https://twitter.com/Toriken_hokudai
インスタグラム https://www.instagram.com/toriken_hokudai/
◇北海道大学札幌キャンパス
JR札幌駅から歩いて7分の場所に位置する国立大学。大学の起源は1876年に設置された札幌農学校。
北大は野鳥観察に絶好なフィールド
北海道大学札幌キャンパスの敷地の概略図(国土地理院の地図を加工)
「177万平方メートルという広大な敷地面積に、校舎や研究棟などの人工物に加え、多くの木々が生える森や小川、田畑がある。様々な環境があり生き物の種類が多い」(安田さん)
実際に北大の地図を広げてみると、大学構内には恵迪(けいてき)の森や遺跡保存庭園といった木々が茂っている場所もあれば、別の場所にはサクシュコトニ川や大野池といった水辺もあることがわかります。
さまざまなフィールドに生態の異なる別の種類の鳥たちが生息しているというわけです。
さらに「北大周辺に鳥たちが羽を休める場が無いので、鳥たちが集まってきやすいという点」「街中にあるため、観察者がアクセスがしやすい点」も北大で野鳥観察をするメリットとして安田さんは挙げています。
「季節ごとに観察できる鳥の種類が変わる」シマエナガ探しは冬がおすすめ
センダイムシクイ 2022年5月5日 大野池 外岡隼さんが撮影
北大では4〜5月にセンダイムシクイやオオルリ、ベニマシコ、カッコウ、オオジシギなどが観察されます。
ベニマシコ 2023年5月3日 北大外(積丹町) 外岡隼さんが撮影
オオルリ 2023年5月16日 中央ローン 池尻晄晟さんが撮影
特徴は「上面から後頭部にかけた深みのある青、おでこのコバルトブルー、のどの黒色、お腹の白色」。青と白のコントラストが美しい鳥です。
「春の早朝に恵迪の森や遺跡保存庭園を歩いていると、オオルリの複雑で美しいさえずりを聞ける場合がある。双眼鏡で木の枝をくまなく探せば見つけられるかも」(安田さん)
コムクドリ 2022年4月28日 遺跡保存庭園 安田直矢さんが撮影
ノビタキ 2022年5月14日 北大外(石狩市) 安田直矢さんが撮影
オシドリ 2022年4月11日 恵迪の森 安田直矢さんが撮影
オシドリは4月の中旬ごろに飛来してきて、北大構内の木の高い場所にある洞(ほら)に巣を作り、繁殖します。「メスのオシドリが、ヒナを連れてメインストリートを横切っている姿を見たことがある人も多いのでは」と安田さん。
地元の人々に見守られながら子育てをする北大のオシドリ。ゆっくりと歩いたり泳いだりするので、バードウォッチング初心者でも簡単に見つけられる鳥です。
オオワシ 2023年11月22日 北キャンパス 池尻晄晟さんが撮影
9〜11月に北大で観察される主な鳥の種類は、マミチャジナイやクロツグミ、コサメビタキ、ミヤマガラス。またマガンやオオハクチョウ、オオワシ、オジロワシなどが北大上空を飛んでいることがあるといいます。
ミヤマガラス 2023年11月13日 北大第一農場、石山通り 安田直矢さんが撮影
ミヤマガラスの分布域はヨーロッパから中国までと広いものの、日本では繁殖していません。渡りの時期である10〜11月に北大に立ち寄ることが多いようです。
近年の特筆すべき観察記録は、2023年10月28日の夕方に、60羽のミヤマガラスが北大第一農場で観察された事例。
「どうやら北大周辺にねぐらがあるようだ。そのため、ねぐら入り前に多くの個体が第一農場に立ち寄ったのではないか」と安田さんは指摘します。
さらに同日には北大で最もポピュラーな種類のカラスであるハシブトガラスとハシボソガラスに加え、2羽のコクマルガラスも北大で見つかっていました。
安田さんは「北大で4種類のカラスが観察された珍しい日だ」といいます。
マミチャジナイ 2023年10月14日 遺跡保存庭園 池尻晄晟さんが撮影
「クロツグミやマミチャジナイが渡りの最中に鳴いているのです。この鳴き声をノクターナル・フライト・コールといいます」(安田さん)
キレンジャク 2021年3月5日 北大理学部横 和賀大樹さんが撮影
ベニヒワ 2023年11月5日 北大外(羽幌町) 松浦基成さんが撮影
「冬は夏とは違い、木々が落葉しているので小鳥たちが木々の葉で隠されず観察しやすい。小鳥探しにはうってつけの季節だ」(安田さん)
シマエナガ 2023年12月28日 北大外(平取町) 松崎秀哉さんが撮影
しかし北大でシマエナガ探しをする際には、気を付けなくてはいけない点もあります。
「札幌市内では1年を通して観察される場所もあるシマエナガだが、北大では冬にしか見られない」(安田さん)
シマエナガの群れ 2023年12月19日 北大のサークル会館前 SASARUライター野中直樹が撮影
「シマエナガは体が小さくてすばしっこく飛び回っているので、目視で見つけるのは意外と難しい。だが鳴き声が『ジュリ、ジュリ』と独特なので、それを頼りにすると見つけやすい」(安田さん)
タンチョウにクマゲラ…最近、北大で観察された珍しい鳥たち
タンチョウ 2022年4月15日 安田直矢さんが撮影
「2022年4月、タンチョウが北大上空を飛んでいるのを発見した」(安田さん)
大正時代には国内で絶滅したと考えられていたタンチョウ。しかし大正末期の1924年、道東で少数が生息しているのが再発見されました。そして道東を中心に個体数が増加。
令和3年度のNPOタンチョウ保護研究グループの調査によると、個体数は約1,800羽です。
さらに道央圏でも2012年に繁殖が確認されました。北海道内での生息範囲を少しずつ西に広げているようです。
「なんだこれと思い、双眼鏡をのぞいたらタンチョウだった。興奮で体が震えた。道外から北大に進学したので、札幌市の中心でタンチョウを初めて見た」(安田さん)
クマゲラ 2021年1月26日 恵迪の森 野中直樹が撮影
「カラスと見間違うほどの大きくて黒い体。そして頭部が赤い」。クマゲラの分かりやすい特徴がすぐに頭に浮かび、種類の判別は容易でした。
「コン、コン、コン」と乾いた音が森中に響き渡っていました。クマゲラは必死になって切り株にくちばしを打ち付けて木を砕き、中にいる餌となる虫を探しているようでした。
「北大は動物と人が共生する場」野鳥観察で気をつけるべきこと
1つ目は大学のルールを守ること。
北大は大学関係者以外でも気軽に立ち入れる地域に開かれた大学ですが、植生などを保全するために立ち入り禁止の場所が構内に数カ所設置されています。立ち入り禁止を伝える看板やロープなどに注意を払い、マナーを守って施設を利用するようにしていただけたらと思います。
2つ目は野鳥の観察圧を極力少なくすること。
安田さんは「集団での観察や撮影をしない」「長時間の観察や追いまわしをしない」「繁殖の邪魔をしない」という点を強調しています。
「ついつい鳥に集中しすぎて、近づきすぎてしまうことがよくある。鳥にプレッシャーを与えないように適度な距離を保つべきだ」
「繁殖期の野鳥はデリケートだ。営巣地に近づかずに遠くから見守ることが大切だ」(ともに安田さん)
北大はアクセスも良く、多くの野鳥を観察できるのでバードウォッチング初心者にもおすすめのスポットです。ルールを守って野鳥観察を楽しみましょう。
※写真は北大野鳥研究会のメンバーと野中が撮影
バードウォッチングを通して、自然を楽しむ北大のサークル。メンバー数は約50人。
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◇北海道大学札幌キャンパス
JR札幌駅から歩いて7分の場所に位置する国立大学。大学の起源は1876年に設置された札幌農学校。
野中直樹
学生ライター
数学を学ぶ北大生。グルメやグッズ、研究など北大のニュースならどんな話題でも取材します。